彷徨う私は闇夜の花に囚われて
「お金なんて気にしないで」
「えっと……ありがとう!」
俺の耳に届くようにと、いつもより大きな声でお礼を言う美紅。
笑顔の中にちょっと陰りがあるのは、奢ってもらうのに気が引けているんだろう。
でも、本当に気にしないで欲しい。
入学してからはせかせかと働きづめていて、高校生にしては貯まっている方だと思う。
だって……別人に生まれ変わるための整形費用はもういらないでしょ?
美紅の心は完全に俺のものになったんだから……。
「……外、完全に真っ暗だね」
「月も雲に隠れてるし」
「ね、灯りがないところはちょっと怖いよね」
「家まで送る」
駅前は眩しいほどに人工の光で煌々と照らされていたけど、しばらく歩いたところにあるこの辺の住宅街は灯りが少なくて危ない。
分厚い雲で覆われ、月も星もはるか向こうへ隠れてしまっていて。
「いっぱい優しくしてくれて、ありがとう」
制服の上に白いコートを羽織っている美紅。闇夜の中では、やけに明瞭に美しく見える。
『立っているだけでも惹きつけるのに、花が咲いたような可憐な笑みを見せるのは反則だ……』
―――俺の心だって、ずっと昔から真っ白な花に囚われていて……絶対に逃げられないんだから。