彷徨う私は闇夜の花に囚われて



よく考えてみれば、バイトがない日にすみれちゃんと一緒に帰宅しないのは初めてで。


『このケーキの生クリームの量はすみれちゃんが喜びそうだなぁ』


と、スポンジから零れているクリームを眺め、近くにいない親友のことを考えた。


ほんとはチョコレートケーキが一番好きなのに、ショートケーキを見たらついそれを頼んでしまって。


いかにすみれちゃんが私の生活に溶け込んでいるのか、身をもって知る。


『……甘すぎるなぁ』


私の口には合わない重めのクリーム。


口直しにレモンティーを口に含んでいると、後輩くんが大きく深呼吸を始めた。


1回、2回、3回。


動きを目で追うと、自然と私の呼吸も同じ速度になり、不安定になっていた気持ちがいくらか落ち着く。


自分の中のものを吐き出して外のものを取り入れるのは大事なんだろうなって、冷静に考えた。


その間に後輩くんは閉じていた目を開き、やがて意を決したように口を開く。


< 45 / 204 >

この作品をシェア

pagetop