彷徨う私は闇夜の花に囚われて
最初に自分の中にあったものは、受験先が同じ人の動向が気になったからだとか。
同級生から天才と呼ばれている彼が机にかじりついていて意外だったからだとか。
ただの興味だったはずなのに。
何度も樹くんの姿を見る度に私の記憶に刻み込まれて……“異性の気になる人”に変わってしまったの。
樹くんと廊下ですれ違う度に、振り返ってしまいそうになるのを堪えるようになった頃。
私は樹くんのもう一つの習慣を知った。
私も人並み以上に勉強をする方で、その日は早起きをして眠気覚ましのためにも自室の部屋の窓を全開にしていて。
―――タッタッタッタッ
軽快な音が聞こえて目を凝らせば、ぼんやりと月に照らされた樹くんが蛍光色のライン入りのジャージを着て、私の家の前を走り過ぎ去っていくのが見えた。
家の外に出た瞬間にも身が凍ってしまいそうな真冬の早朝。
許されることなら全身に分厚い毛布を纏って家に引きこもっていたい私にとって、そんなときに走るなんてとても信じられないことで。