彷徨う私は闇夜の花に囚われて
『じゃあ……よろしくお願いします』
『うん』
ゆるっと始まった私たちの交際。
蝉たちが鳴く声は私の心の中を表しているようにも思えた。
うるさく、激しく、逸る。
一時前よりもほんの僅かに近づいた距離感。
それに気づいて、もっともっと心臓が暴れる。
ぎくしゃくと右の両手両足を同時に出してしまう私を見た樹くんが、愛おしそうにほんのり笑うから。
きゅうっと胸が甘く鳴って、端麗な容姿から目が離せなくなった。
私が動きを止めている間にその綺麗なお顔が私の顔へとゆっくり近づいて……
……ぴたっと。
唇同士が触れる寸前で動きが止まる。
樹くんは小さく息をのみ、近づいていた顔を遠ざけた。
「ごめん」
ぼそりと謝る樹くんは本当に反省しているみたいで背中を丸めて肩を落としている。
こ、これはもしかして、恋人同士のそういうやつ……?
中学生で大人への一歩を踏み出しちゃうの……?
と、内心そわそわしていた私は肩透かしを食らった気分で。