彷徨う私は闇夜の花に囚われて
◇ ◇ ◇
店を出ると外はすっかり暗くて、夜が季節をどこかへ追いやってしまっていた。
しばらく私の手を引き続けた樹くんは住宅街に入ってからようやく私を開放する。
それから無言で私の歩くペースに合わせてくれた。
樹くんの家を通り過ぎてもなお、それは続いて。
……わざわざ送ってくれるつもりなのかな。
昔と変わらない優しさが私の心臓をざわつかせる。
だけど……
「……なんで?」
沸々と込み上げてくる怒り。
抑えられない激情がくっきりと声に表れた。
私が苛立っている理由がわかっていない樹くんは口を閉ざしたまま。
……私のこと、大して好きじゃなかったくせに。
私は樹くんの特別になれなかったのに。
それなのに、後輩くんの邪魔をしたり、私を前と同じく大切に扱ったり。
意味がわからない……。
私たちの関係は“元”恋人であってそれ以上でも以下でもない。
今でも追いかけてくる視線の中に熱い気持ちが込められているなんて、たぶん私の気のせい。