彷徨う私は闇夜の花に囚われて
「……結構単純で、私が臆病ってだけの話なんです」
机の上に置いてあった麦茶を口に含み、乾きかけていた喉を潤した。
それから記憶を辿ろうとなにもない右上を眺める。
「中学生のときにかっこいい彼氏ができました。同じクラスになる前から好きで、付き合えたときは信じられなくて……夢みたいに幸せでした」
半開きになっていた扉の隙間から苦い記憶が漏れ出し、私の顔を苦笑いへと変えた。
紅バラさんは時折相槌を打つだけで特に大きな反応はしない。
それが私の邪魔をしないようにしているみたいで……またそういう些細なことに嬉しくなって。
春風のような温もりを感じた私は、苦さを忘れて言葉を続ける。
「付き合ったその日は……その、恋人っぽいなって思えることも少しだけしたんですけど。それから先はあんまり進展しなくて。私って本当に彼女なのかなって自信をなくしていきました」