彷徨う私は闇夜の花に囚われて
樹くんはいつになく興味なさそうに冷ややかで。
友達はぎゃはぎゃはと品のない笑いを散らしていた。
『どこまで進んだの?』
『……手は繋いだ』
『は?なにそれ彼女のこと好きじゃないのかよ。お前がそんなんなら、俺が奪っちゃおうかな~?彼女可愛いし』
『別にいいけど』
たったこれだけの会話。
されど、私の心をえぐるには十分すぎた会話。
耐えられなくなった私は音も立てずにその場から駆け出した。
頬に透明な太い横線ができるのを感じながら、冬の寒空の下を駆けて。駆けて。
冷たい空気を何度も吸い込んだ喉の奥も、完全に打ちひしがれた心も。
失くなってしまえばいいと思うほどに痛くて。
冬以外の理由で冷え切ってしまっている自分の部屋で、堂々と泣き崩れた。
冗談でも友達の彼女を奪うと言える友達の無神経さ。
あっさりとそれを了承した樹くん。
私は樹くんのことを好きだって言う女の子たちにいくら真剣な顔で迫られても決して頷かなかったのに。
怖くて泣いちゃうことはあっても、絶対に譲るなんて言わなかったのに。