彷徨う私は闇夜の花に囚われて
『紅バラさんは大丈夫なんですけどね』
なんて言葉がつい、軽く口から出そうになる。
でも、自分の気持ちに確信が持てないのにそんな無責任なことをしたらダメだ。
いつもだったら流れで言ってしまいそうな言葉を慌てて飲み込んだ。
「……ごめんね。辛いことを話してくれてありがとう。ただ、それを聞いた上で言わせてほしい」
紅バラさんはそっと私の後を引き継ぐように、そして意を決したように言葉を紡ぐ。
空気がぴんと張りつめ、身じろぎするのも音を立てそうで躊躇してしまう。
数秒の静寂で、時が止まったような錯覚を覚えたそのとき、
「―――ましろの辛い過去を、上書きさせて。俺にチャンスをちょうだい」
紅バラさんははっきりとした声で、だけど柔らかく空気を裂いた。
ちょっと独特な紅バラさんの言葉選びになんだか泣きそうになる。
私の苦しくも忘れられない思い出をそのままにしてていいよって。
それから自分が思い出を重ねて、自然と辛い過去を奥底にしまってあげるって。
そう言ってもらえた気がしたから。