冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
「口うるさい継母しだいってことね」

 肩をすくめた真琴の表情には同情の色がにじんでいる。真琴の言葉にかぶせるように、桃子が声をあげる。

「え~。蝶子は修士で卒業して、例の婚約者と結婚するんじゃないの?」
「まだ具体的な話はなにも……晴臣さん、帰国したばかりだし」
「それにしても、いまどき許嫁とはね~。さすがガチのお嬢さまは違うわ」

 桃子はそんなふうに言ったが、実際には桃子と真琴だって上流家庭の娘だ。生家に余裕がなければ、シェイクスピア研究なんて就職で有利になるわけでもない学問を院に進学してまで続けることはできないだろう。

「うちは古くさい家だから」

 蝶子はそう謙遜するが、彼女は製薬会社の社長令嬢だ。『観月製薬』は医療用医薬品専門の新薬メーカーで、誰もが名前を知るような大手ではないものの、領域特化型のメーカーとしては老舗の部類に入る。

「デートはしてるんでしょ? どうなの、相手の男は。変な奴じゃないでしょうね?」

 姉御肌の真琴が鋭く詰問すると、蝶子はぽっと頬を赤く染めた。目ざとい桃子がすかさず追求する。

「なに、なに? もう一線をこえたってこと?」
「ち、違――」
< 10 / 188 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop