冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 晴臣は失望したような瞳でふぅと息を吐き、蝶子から視線をそらした。

「またそれか。嫌だと言わないことは、優しさではない。むしろはっきり言ってもらえたほうがよほどいい」

 彼はくるりと蝶子に背を向けた。話の内容はさっぱりわからないが、自分の言動が彼を傷つけたことははっきりとわかった。

(晴臣さんのこんな顔、初めて見た)

「ごめんなさい!」

 蝶子は大きな声で彼の背中に呼びかける。これまでの蝶子にはこんな勇気はなかった。でも今は、晴臣のそばにいるためなら強くなれる。

(今はごまかしてちゃダメな時だ。これからも晴臣さんと一緒にいたいから)

 振り向いた晴臣は少しバツの悪そうな顔をしている。くしゃりと自身の髪をかき混ぜながら、彼はぼやく。

「大人げないとわかっている。けど、君の前だと俺は、大人の余裕なんてまったくない未成熟な男になってしまう」

 彼が初めて見せてくれた弱さに蝶子はいとおしさを感じる。いつだって晴臣に甘えてきたけれど、今回ばかりは自分もがんばらなくてはいけないと蝶子は自分を奮い立たせた。

「私も晴臣さんに話さないといけない大切な話があるんです。聞いてくれますか?」

 
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