冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
観光客のルートから少し離れた静かなベンチにふたりで座った。
「私から先に話させてください」
蝶子はきっぱりと宣言すると、大きく深呼吸をひとつする。決心が鈍らないうちに、覚悟を決めて口を開く。
「私は左耳の聴力がすごく弱いんです。右耳はむしろ人よりよく聞こえるくらいなので、日常生活に支障はありませんが……たくさんの人がいっせいに話しているような状況だと混乱してしまって聞き取れないことがあります」
蝶子の告白に晴臣は目を丸くしている。
「ずっと黙っていてごめんなさい。観月家が婚約者を私ではなく七緒にと言い出したのは、こういう事情もあってのことなんです」
本当は自分より七緒のほうが晴臣にふさわしいのかもしれない。その思いは今も蝶子のなかにずっと消せずにくすぶっている。
晴臣は低い声でたしかめるように言う。
「今だけでなく、初めて食事をしたときも向かいの団体客が騒がしかったよな。あのときも聞き取りづらかったりしたか?」
「えっと…あぁ、元気なおばさまたちがお向かいにいましたね。はい、実はあのときも少し」
蝶子は初めてのデートを思い出しながら答える。晴臣はがくりとうなだれ、大きく息を吐く。それを責められているのだと思いこんだ蝶子は必死に謝罪の言葉を口にする。
「本当に申し訳ありませんでした」
今からでも婚約は解消してもいい、そう申し出ようとしたところで晴臣ががばりと顔をあげた。彼の腕が伸びてきて、ぎゅっと強く抱き締められた。
「私から先に話させてください」
蝶子はきっぱりと宣言すると、大きく深呼吸をひとつする。決心が鈍らないうちに、覚悟を決めて口を開く。
「私は左耳の聴力がすごく弱いんです。右耳はむしろ人よりよく聞こえるくらいなので、日常生活に支障はありませんが……たくさんの人がいっせいに話しているような状況だと混乱してしまって聞き取れないことがあります」
蝶子の告白に晴臣は目を丸くしている。
「ずっと黙っていてごめんなさい。観月家が婚約者を私ではなく七緒にと言い出したのは、こういう事情もあってのことなんです」
本当は自分より七緒のほうが晴臣にふさわしいのかもしれない。その思いは今も蝶子のなかにずっと消せずにくすぶっている。
晴臣は低い声でたしかめるように言う。
「今だけでなく、初めて食事をしたときも向かいの団体客が騒がしかったよな。あのときも聞き取りづらかったりしたか?」
「えっと…あぁ、元気なおばさまたちがお向かいにいましたね。はい、実はあのときも少し」
蝶子は初めてのデートを思い出しながら答える。晴臣はがくりとうなだれ、大きく息を吐く。それを責められているのだと思いこんだ蝶子は必死に謝罪の言葉を口にする。
「本当に申し訳ありませんでした」
今からでも婚約は解消してもいい、そう申し出ようとしたところで晴臣ががばりと顔をあげた。彼の腕が伸びてきて、ぎゅっと強く抱き締められた。