冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
「わ、晴臣さん?」
「違う。怒っているんじゃなくて、ただ安心したんだ」

 晴臣の声は柔らかく、本当にほっとしたような響きがあった。

「君が大事な話をはぐらかすのは、本心では俺との結婚を迷っているからだと思っていた。そうじゃなくて、ただ聞こえていなかっただけなのか」

 自分に言い聞かせるような口調で彼は言ってから、蝶子の肩を押し正面から蝶子を見つめた。

「左耳の話はなにも気にすることはない。俺も言ってなかったが、視力があまりよくないから普段はコンタクトレンズを使用している」

 彼がコンタクトレンズを使っていることは洗面所に置いてあるケアグッズを見て、蝶子も知っていた。

「それとは少し――」
「同じだ。むしろ視力と聴力でどう話が変わるんだ? そんなことで君の価値が変わることはない」

 彼にはっきりとそう宣言され、蝶子は自分が思っていた以上にほっとしてしまい……思わず涙ぐんだ。彼は優しい手つきでそれを拭うと、苦笑しながら言う。

「聴力を理由に君の妹と結婚しろとは絶対に言うなよ。俺とあの子はどう好意的に見ても相性が悪い」
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