冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く

　晴臣の言わんとしていることは蝶子にも伝わった。つまり、彼は蝶子が彼に抱く感情は錯覚なのじゃないかと心配しているのだ。極端に的外れな話でもない、蝶子自身も『彼を利用する罪悪感から逃れようとしているのでは？』と考えたことがあった。
　晴臣は苦悩のにじむ声で続ける。

「君はあの家でずっとないがしろにされてきたんだろう。俺はその弱ったところにつけ込んで、君を支配しようとしているのかもしれない」
「それは絶対に違います！　晴臣さんはずっと私の気持ちを尊重してくれました。私、晴臣さんと暮らしはじめてからは、思ったことをためらわずに口にできるようになりました」

　蝶子は懸命に自分の気持ちを言葉にしていく。彼のおかげで、苦手だったこの作業もずいぶんと上手にできるようになったのだ。

「たしかに、実家での生活ともちろんもともとの性格もあって……私はずっと自己主張が苦手でした。人と衝突するくらいならあきらてしまえばいいと、考えがちでした。でもっ」

　蝶子はまっすぐに彼の目を見て伝える。