冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
「思考力と判断力まで失っていたとは思っていません。晴臣さんを好きだと感じた気持ちもずっと一緒にいたいという願いも、私自身のものです。誰かに強制されたものじゃないっ」

 必死の演説を終え、蝶子は肩で息をする。晴臣は目をパチパチと瞬いたかと思うと、「ははっ」と大きな声をあげて笑った。

「わ、笑わないでください。私なりに一生懸命に話したのに」
「いや、これは自分の傲慢さにあきれて出た笑いだ。俺はずいぶんと君を見くびっていたようだ」

 晴臣は蝶子の頬をさらりと撫で、ふっと頬をゆるめた。

「たしかに君の言うとおりだな。あの家にいるときだって、君の知性と心の輝きは少しも奪われていなかったのに」
「私、ちゃんと晴臣さんが好きです。それだけは自信を持って言えます」

 錯覚でも支配でもない。この気持ちは蝶子のなかから生まれたものだ。
 晴臣の顔がゆっくりと近づいてきて、唇に優しいぬくもりが触れた。

「わかった、蝶子を信じる」

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