冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
「蝶子ちゃん、資料ケースをうちに忘れていったろ。卒論で使いそうなのもあったから届けにきたんだよ」

 沙良が言いながら、自分のカバンを開け蝶子の忘れものであるピンクのファイルケースを取り出した。蝶子はそれを受け取って、沙良に頭をさげた。

「すみません、わざわざ」
「これが主目的じゃないよ。虹の王国シリーズで世話になってる装丁会社が目黒なんだ。ちょっと用があって、そのついでね」

 蝶子が手伝っているのは例のロミオとジュリエットモチーフの作品だけだが、彼はほかにも複数の仕事を同時進行している。

「それでも、お忙しい先生をわずらわせてしまって申し訳ないです」

 沙良はちらりと蝶子に目を向け、ふっと頬を緩ませる。
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