冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 挑発するような晴臣の言葉に、沙良もかっとなる。

「俺が言いたいのはそういうことじゃなくて、蝶子ちゃんのことを――」

 沙良の言葉を遮って、晴臣は言い放つ。

「どうでもいいんだよ。この感情が純粋な愛情ではなく、ゆがみきった醜い欲望だったとして……それがどうした。たとえ行く先が地獄だったとしても、蝶子には生涯、綺麗なものしか見せない。その覚悟はできてる」

 晴臣はくるりと蝶子の身体を反転させ、自分のほうを向かせた。熱っぽい瞳にとらわれて、蝶子に心臓は大きく高鳴る。

「その先生の言うことも一理ある。俺は君を正しい道に導く万能なヒーローなんかじゃない。ただ自分が君なしには生きられないから……君を道連れにしようとしているだけかもしれない。――それでも、俺と来るか?」
「……はいっ」

 蝶子はなんの迷いもなく、晴臣の胸に飛びこんだ。

「晴臣さんと一緒なら、たとえ地獄でもそこが私の居場所です。あなたの隣にいられるなら、綺麗なものなんて一生見られなくなってもいい」

 蝶子だって晴臣とまったく同じ気持ちだった。晴臣を思うこの気持ちに、他人がどんな名前をつけようと知ったことではない。ゆがんでいようが、間違いだろうが、そんなことは問題ではない。

(私にとって大切なことは、必要なものは、正しいことじゃない。晴臣さんと一緒に生きることだ)
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