冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 気持ちが固まってしまえば、話は早かった。その翌週には蝶子は松濤の有島本家にあいさつに出向いた。順番を守らずに妊娠したうえに実家を勘当されているというワケありの嫁である蝶子を、百合は心から歓迎してくれた。晴臣の父親である高志も異論はないようだ。というより、観月家と同じく有島家も実権を握っているのは妻のようだった。

「あ~、本当にうれしいわ。小夜子さんのいなくなったあの家で蝶子ちゃんが寂しい思いをしていないか、ずっと気になってたのよ。うちに来てくれたなら、これからはなにがあっても私が守ってあげられるものね」

 そんなふうに言って抱き締めてくれた百合に、蝶子は遠い昔に別れた小夜子のぬくもりと似たものを感じた。百合の背中におずおずと手を伸ばし、きゅっと抱き締め返す。

「お母さんみたい……」

 思わずぽつりとこぼすと、百合は涙ぐんだような声で蝶子に言う。

「みたいじゃなくて、お義母さんよ。いつでも頼ってね」

 蝶子の瞳からもふいに涙があふれた。お母さん……ずっと忘れていた懐かしい響きだった。紀香を母だとはどうしても思えなかったが、百合が母となることは違和感なくすとんと腹に落ちるような感覚だった。

(お義母さんは、どこかお母さんに似ているからかも)
< 145 / 188 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop