冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 紀香が訪ねてきた日からちょうどひと月。観月家からはなんの連絡もなかったし、蝶子ももうこちらから連絡を取る気はなかった。このままゆるやかに疎遠になっていくのだろうと思っていたある日のこと、羽柴教授の研究室にいた蝶子のスマホが鳴った。

 小さな画面に表示されているのは七緒の番号だった。蝶子はかなり迷っていたが、呼び出し音はいつまでも鳴りやまない。覚悟を決めて蝶子は通話ボタンを押した。

「もしもし」

 少しの間のあとで、すがるような七緒の声が蝶子の耳に届く。

『どうしよう……お姉ちゃん』

 実家近くのカフェで蝶子は七緒と待ち合わせをした。遅刻癖のある七緒が自分より早く店にいたことに驚きながら、蝶子は席に着く。互いに緊張した面持ちで、目線を合わせる。

「久しぶりだね、七緒ちゃん」

 蝶子はかろうじて笑顔を作ったが、七緒はなにか思いつめたような表情で黙り込んでいる。

「なにか、あったの?」

 紀香と喧嘩でもしたのだろうか。蝶子はそう軽く考えていたが、七緒が語りはじめた話は蝶子も予想していないことだった。

「引き抜きって、六人もいっぺんに?」
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