冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 観月製薬が今もっとも力を入れている新薬開発グループの人材が、六人いっせいにライバル会社への転職を決めてしまったらしい。製薬会社の社員は一種の専門職なので、転職をする人間は多い。他業界に比べると人材の入れ替わりは多いほうだ。だが、同じ部署内の人間が複数人同時というのはさすがに聞いたことがない。

「お父さんが言うには、会社が一番投資をしていた分野なのにもう立ち行かなくなっちゃうんだって。それに、うちの情報や技術やライバル会社に流れちゃうかもって」
「転職は自由だけど、機密情報を他者に流すのは法律違反じゃなかったかな? 私も詳しくはないから調べてみるけど」

 蝶子は冷静に答えたが、七緒はパニック状態だった。声を荒らげて叫ぶ。

「そんな悠長なこと言ってられないのよ! パパの会社、つぶれるかもって。お母さんの実家も愛想つかしちゃって、もう支援はしないって言い出したし。私、大学辞めなきゃいけないかも……」

 青い顔でカタカタと肩を震わせながら、七緒は悲痛な声をあげる。

「お願い、お姉ちゃん! 有島さんに援助をお願いしてよ。あそこならうちを助けるくらいなんてことないんだから」
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