冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
七章
＊＊＊

　観月家での会合より一週間ほど前のこと。
　手術室から出てばさりと白衣を脱ぎ捨てる晴臣の背中に、ベテランのオペナースが声をかける。

「さすがは晴臣先生。難しい症例ですのに、見事なオペでした」
「いや、この場にいる全員が優秀だったからだ。俺のほうこそ感謝する」

　晴臣先生と呼ばれているのは父である高志と区別するためであって、別に晴臣とこのナースが懇意なわけではない。

「今日はこれで勤務終了でしたよね。おつかれさまでした」
「あぁ。緊急の呼び出しがあった際には、俺を一番後回しにしてもらえるとありがたい」

　冗談まじりにでも晴臣がそんな要望を出すのは珍しいことだ。ナースはクスクスと笑いながらからかうように言った。

「新婚さんですもんね～。奥さまとデートですか？」
「だったらいいんだがな」

　残念ながら今夜のデート相手は愛する新妻ではなく、六十代の男性だ。それでも晴臣は待ち合わせ時間より十分も前から約束の喫茶店で彼を待っていた。現れた彼に晴臣は深々と頭をさげる。

「わざわざお時間を作っていただき、恐縮です」
「いやいや。定年間近で閑職に追いやられている身ですからお気になさらず」

　彼はそう謙遜したが、交換した大手製薬会社の名刺には【室長】の役職名が記されていた。
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