冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 その翌日、晴臣は愛車でアクアラインを走り抜け、房総半島へと向かっていた。平日で道が空いていたこともあり、目黒の自宅から二時間もかからないうちに目的地に到着してしまった。

「こんなに近くにいたのか」

【お宿 華海】と書かれた看板の前で晴臣はぽつりとこぼす。拍子抜けしてしまったような妙な気分だった。失踪という言葉のイメージから、小夜子はすごく遠くに行ってしまったように思っていたのだ。
 晴臣は蝶子には内緒で興信所に頼み、小夜子の行方を追った。予想どおりではあったが、一週間もしないうちに簡単に彼女は見つかった。ありとあらゆる情報網の発達した現代日本で、行方を完全にくらませるほうが難しい。生きていれば、いや、たとえ亡くなっていたとしても本気で捜せば見つかるだろうと思っていた。蝶子はそれは知りつつも、そっとしておくほうを選んだのだろうが。だが、晴臣にとっては小夜子よりも蝶子が大事だ。

(過去をあきらかにすることが蝶子のためになるのなら)

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