冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 その一心で小夜子に会いにきたのだ。彼女はここで住み込みの仲居として働いているそうだ。昼の休憩時間に話を聞けるように、すでに約束は取りつけてある。

「まぁ、晴臣くん! 立派になって」

 子どもの頃、小夜子には何度か会ったことがある。その頃の印象とあまり変わらないたおやかな女性が晴臣を見て、目を細めた。

「ご無沙汰しております。お仕事中に申し訳ありません」

 小夜子は遠慮がちな笑みを浮かべて、首を横に振る。その表情も仕草も、驚くほど蝶子にそっくりで晴臣をはっとさせる。
 旅館の裏庭にある従業員用の休憩スペースにふたりは並んで座った。晴臣は缶コーヒーを、小夜子はペットボトルに入ったお茶を飲みながら話をする。
 小夜子は「ふふ」と小さく笑って言う。

「私と百合さんが勝手に盛りあがっただけなのに、まさか本当にふたりが結婚してくれるなんてね」
「あの約束があったからというわけではないです。俺が彼女に惚れ込んで、口説き落したんです」

 真面目な顔で晴臣が答えると、小夜子は目を丸くして「まぁ」とつぶやいた。小夜子は軽く目を伏せ、ペットボトルを握り締める指先を震わせながら晴臣に聞く。

「あの子――蝶子は元気にしている?」
「元気ですよ。来年二月には子ども産まれる予定です」
「そう……そうなのね」
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