冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
かみ締めるようにそう言った小夜子の目尻には涙が光っていた。晴臣は冷静になれと自分に言い聞かせながら言葉を発したが、その声には隠しきれない静かな怒りがにじむ。
「どうして、蝶子に会いにいってあげないんですか」
いや、そもそもなぜ幼い蝶子を置いて家を出たりしたのか。それがどれだけ蝶子を傷つけたか……晴臣はこぶしを強く握る。
(だが、俺だって同罪だ。蝶子の母親が出ていったと知っていたのに、なにもしなかった)
小夜子が出ていった当時、晴臣は十二歳だ。その頃の彼は婚約者という名前のついた幼い少女に特段の興味も関心もなく、観月家の騒動を『大変だな』と他人事のように思うだけだった。
小夜子はかすれた声で絞り出すように話す。
「会わせる顔がなくて……私があの子を捨てたのは事実だから」
「あのとき、なにがあったのか教えてくれませんか? 俺は蝶子を一点の曇りもなく幸せにしたい。その邪魔をする可能性があるものはすべて排除しておきたいんです」
覚悟を決めた強い声で晴臣は言う。正直なところ、小夜子に会ったことも、彼女が生きていることも、蝶子の幸せの邪魔になるなら告げないつもりでいる。晴臣にとって大切なのは蝶子だけで、観月家のハッピーエンドなどは別に望んでいない。
「どうして、蝶子に会いにいってあげないんですか」
いや、そもそもなぜ幼い蝶子を置いて家を出たりしたのか。それがどれだけ蝶子を傷つけたか……晴臣はこぶしを強く握る。
(だが、俺だって同罪だ。蝶子の母親が出ていったと知っていたのに、なにもしなかった)
小夜子が出ていった当時、晴臣は十二歳だ。その頃の彼は婚約者という名前のついた幼い少女に特段の興味も関心もなく、観月家の騒動を『大変だな』と他人事のように思うだけだった。
小夜子はかすれた声で絞り出すように話す。
「会わせる顔がなくて……私があの子を捨てたのは事実だから」
「あのとき、なにがあったのか教えてくれませんか? 俺は蝶子を一点の曇りもなく幸せにしたい。その邪魔をする可能性があるものはすべて排除しておきたいんです」
覚悟を決めた強い声で晴臣は言う。正直なところ、小夜子に会ったことも、彼女が生きていることも、蝶子の幸せの邪魔になるなら告げないつもりでいる。晴臣にとって大切なのは蝶子だけで、観月家のハッピーエンドなどは別に望んでいない。