冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 蝶子が笑みを返すと、小夜子は手に提げていたサブバッグから古ぼけた小さなノートを取り出して蝶子に渡す。

「なぁに、これ?」

 赤いカバーの日記帳のようだ。少し劣化して赤茶けた紙が過ぎた年月を感じさせる。

「蝶子が子どもの頃につけていた日記帳よ。私があの家を出るとき、たまたま持って出てきちゃったの。時々見返しては、あなたを思い出していたわ」
「へぇ……」

 蝶子はパラパラとページをめくる。五、六歳の頃の蝶子がつたない絵と文字で日常の出来事をつづっていた。懐かしいような恥ずかしいような、不思議な気持ちになる。あるページで、蝶子はぴたりと指先を止めた。弾かれたように顔をあげて小夜子を見ると、小夜子は「うふふ」と楽しそうに笑う。

「夢が叶ってよかったわね、蝶子」
 
 ふたりと入れ違いに、今度は晴臣が控室を訪れる。ドレス姿の蝶子を見て、晴臣はごくりと息をのみ、大きく目を見はる。ドレス姿はサプライズにしたくて、今日までどんなものを着るのか内緒にしていたのだが……どうやらその甲斐があったみたいだ。

「――綺麗だよ、蝶子」

 晴臣もすっかり支度を終えていた。シルバーグレーのタキシードに、蝶子の花冠に合わせた白バラのブートニア。彼のノーブルさをより引き立てていて、本当に素敵だ。
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