冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
「塗り直せばいい。そもそも、口紅なんていらないだろ。蝶子はそのままでいい」
「あっ」

 晴臣の指先が蝶子の顎をすくう。いとおしい人の顔がすぐそこにある。それだけで蝶子の胸は破裂しそうなほどに高鳴った。

「本番前の予行練習だ」

 柔らかな唇が触れたかと思うと、すぐに舌が差し入れられた。熱い吐息が混ざり合い、身も心もとけていくようだ。ふたりきりの誓いのキスはどこまでも甘く濃密で、蝶子は心が震えるほどの幸福を存分に味わった。

 木漏れ日の差し込むチャペルには静謐で厳かな空気が流れている。大切な人たちに見守られながら、ふたりは永遠の愛を誓う。

「はい、誓います」

 凛とした晴臣の声に、蝶子は思わず涙ぐむ。その様子に気がついた晴臣が小声でささやく。

「ここは泣くところか?」
「晴臣さんが私を愛してくれるなんて、もう胸がいっぱいで……」

 涙声で言う蝶子に晴臣は苦笑する。

「俺は死ぬまで、いや、たとえ死んでも君を愛し続けるから、君はこれから毎日泣くことになるな」

 ストレートに伝えられる彼からの愛情に、蝶子はますます涙をあふれさせた。

「もうっ。これ以上泣かせないでください。お化粧がぁ……」

 クスクスと楽しそうに笑う晴臣の横顔はキラキラと輝いて見えた。

 
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