冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 晴臣はそっと蝶子をベッドの上におろした。蝶子はとっさに正座し姿勢を正して、晴臣を見る。風呂あがりの彼は黒いタンクトップにスウェットパンツというラフな服装で、むきだしになった鎖骨や筋肉質な上腕に蝶子はどきりとする。肌も男性とは思えないほど、なめらかで美しく……ついつい見惚れてしまった。
 蝶子の視線に気がついたのか、晴臣はちらりとこちらに目を向ける。長めの前髪からのぞく彼の瞳は、けぶるような墨色をしている。

「なんだ?」

 蝶子はごまかすように視線をさまよわせながら、答える。

「その、ラフな服装は初めて見るなと思いまして」
「あぁ。俺が帰宅する時間、君はもう眠っているからな」

 蝶子は小学生のように早寝早起きなので、いつも夜二十二時にはベッドのなかだ。もう二週間ほど一緒に暮らしていることになるが、多忙な外科医である彼と顔を合わせる時間はとても少ない。
 晴臣が蝶子の隣に腰をおろす。ベッドがきしむ音がして、空気が重く濃密なものへと変わる。蝶子はその気恥ずかしさをごまかすために慌てて口を開く。

「あの、本当に私が一緒に寝てもいいんでしょうか。狭くはないですか?」
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