冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 どういう意味なのだろうと、蝶子はしばし考えこんだが結論は出なかった。わかったのは、褒め言葉でなないのだろうということだけだ。

「俺が嫌ではないのなら、一緒に帰ろう。君をホテルにひとりで残しておくのも、それはそれで気がかりだ」

 晴臣の言葉に蝶子はこくりとうなずいた。

 蝶子の自宅前でタクシーが停まると、晴臣はわざわざ一度おりて蝶子に別れを告げる。

「アレルギーを甘く見るな、今後は十分気をつけろ」
「はい。本当に……こんな時間までわずらわせてしまってごめんなさい」

 何事もなければランチをして解散していたはずなのに、すっかり夕方だ。蝶子は頭をさげ、彼に詫びた。

「俺に気を使う必要はないと、さっきも言った」
「ですがっ」

 反論しようとした蝶子を遮って、彼は言う。

「またな」

 前回のデートの別れ際とまったく同じ台詞。だが、以前よりほんの少し親しげな口調に変化した。そう感じるのは、蝶子の自惚れだろうか。
『さようなら』ではなく『また』と言ってもらえたことに、蝶子の胸は甘く疼く。
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