冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
「はい! また」

 はにかみながらそう答えた蝶子の背中に、大きな声が届いた。

「え~。お姉ちゃん!?」

 振り返ると、そこには七緒が立っていた。今日は友達と遊びにいくと言っていたが、いつもよりずいぶんと早い帰宅だ。

「七緒ちゃん。早かったのね」
「うん。友達がイケメンを紹介してくれるって言うからはりきってたけど、全然外れだった~。つまんないから抜けてきちゃった」
「そうなの……」

 蝶子は嫌な焦りを覚えていた。七緒と晴臣を会わせるべきではない、蝶子の本能がそう訴えている。だが、七緒は蝶子の肩ごしにひょいと顔を出し、彼を見つけてしまった。

「え~。この人が例の婚約者?」

 蝶子は軽く肩を落としたが、すぐに気持ちを切り替えて晴臣に七緒を紹介した。よく考えてみれば、彼との婚約が順調に進めばいつかは会わせることになるのだ。

「妹の七緒です。七緒ちゃん、こちらは有島病院の有島晴臣さん」
「どうも、初めまして」

 晴臣はビジネスライクにそう言っただけだったが、七緒はあんぐりと口を開けて彼を凝視している。

「う、嘘だぁ~。絶対にダサいおじさんだと思ってたのに……超かっこいいじゃん!」
「七緒ちゃんってば」

 本人を前にしてあまりにも不躾な七緒に蝶子はうろたえるが、晴臣は平然としている。
< 34 / 188 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop