冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 やけに必死な蝶子の姿を見て、紀香は暗い笑みを浮かべた。

「ふぅん。蝶子がそんなに彼との結婚を楽しみにしているなんて、知らなかったわぁ」

 しまった、と思ったがもう遅い。紀香の瞳は底意地の悪い光をたたえて、蝶子を見つめている。

「それにさ~」

 七緒もあざけるような目で蝶子を見やる。

「お姉ちゃん、左耳の話はきちんとしたの?」

 ぎくりとして表情がこわばったのを、ふたりに見破られてしまった。哀れみの交じる声で七緒が言う。

「やっぱりまだ言ってないんだね。耳の不自由な奥さんより、健康な奥さんのほうが晴臣さんもうれしいんじゃない?」

 紀香も同調するようにくすりと笑う。

「それもそうねぇ」

 込みあげてくる苦いものを、蝶子はぐっと飲みこんだ。
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