冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
「天然記念物なみに無垢なお嬢さんだな」
「は、晴臣さん?」

 蝶子を見る晴臣の目つきが変わった。美しく、妖しく、見る者すべてを魅了する魔性を秘めている。場の空気を完全に支配され、蝶子は身じろぎもできずに彼を見つめ返すばかりだ。

「あらためて確認するが、君は俺と結婚する気があるんだよな?」
「それは……晴臣さんがお嫌でなければ」

 消え入るような蝶子の声を遮って、彼は言葉を重ねる。

「俺は嫌じゃない。むしろ、君がいいと思っている」

 率直な彼の言葉に蝶子の身体はかっと熱くなる。白い肌が上気し桃色に染まっていく。頬を撫でていた晴臣の手が蝶子の背中に回り、ぐっと力強く抱き寄せられた。

「妻になる女性には俺の子どもを産んでもらわなくてはならない。君も知ってのとおり、うちは跡継ぎが必要な家だから」
「は、はい」

 そう答えたものの、蝶子はいまだに夢を見ている気持ちだった。晴臣との別れを覚悟したのは、たった半月ほど前の出来事だ。自分と彼との婚約は破棄され、妹の七緒が新しく彼の婚約者になるという事実に絶望したばかりなのだ。そこから、今のこの状況だ。
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