冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
蝶子の左耳は日常生活に大きな支障があるわけではない。だが、少なからずコンプレックスを抱いていることは事実だった。
(晴臣さんに話せてないのは……私自身が七緒ちゃんと同じことを思っているからだ)
そう気がついてしまったら、もう反論する言葉など出てこなかった。紀香は心から楽しそうに弾んだ声があげる。
「実はね、ちょうど今日、有島の奥さんからお電話をいただいたのよ」
うつろな瞳で蝶子は紀香を見る。彼女の笑顔を、初めて憎いと思った。これまでも散々な扱いを受けてきた蝶子だが、紀香を憎んだことは一度もなかった。血の繋がらない娘を愛せないのは当然のことだと受け入れてきた。だが――。
「婚約をどうするかはゆっくりでいいとして、一度家族の顔合わせをしませんか?って」
「ちょうどいいじゃない! そこで晴臣さん本人に選んでもらったらいいわ。結婚相手として私とお姉ちゃんとどっちがいいか」
七緒の提案に紀香も大きくうなずいた。
「そうね。それなら、あなたも文句はないでしょう」
ちらりと送られた視線に、蝶子はイエスともノーとも答えない。それが蝶子に許される唯一の抵抗だった。
蝶子の意思などまるで無視して、紀香と七緒はどんどん話を進めていく。あっという間に顔合わせの日取りが決まり、蝶子にもそれが告げられた。
「私も、出席しないといけないでしょうか」
かすかに震える声で蝶子は聞く。
晴臣の花嫁に七緒が選ばれる、その瞬間はできれば見たくない。さぞかしお似合いだろうふたりに嫉妬する自分が、蝶子には容易に想像できた。
(晴臣さんに話せてないのは……私自身が七緒ちゃんと同じことを思っているからだ)
そう気がついてしまったら、もう反論する言葉など出てこなかった。紀香は心から楽しそうに弾んだ声があげる。
「実はね、ちょうど今日、有島の奥さんからお電話をいただいたのよ」
うつろな瞳で蝶子は紀香を見る。彼女の笑顔を、初めて憎いと思った。これまでも散々な扱いを受けてきた蝶子だが、紀香を憎んだことは一度もなかった。血の繋がらない娘を愛せないのは当然のことだと受け入れてきた。だが――。
「婚約をどうするかはゆっくりでいいとして、一度家族の顔合わせをしませんか?って」
「ちょうどいいじゃない! そこで晴臣さん本人に選んでもらったらいいわ。結婚相手として私とお姉ちゃんとどっちがいいか」
七緒の提案に紀香も大きくうなずいた。
「そうね。それなら、あなたも文句はないでしょう」
ちらりと送られた視線に、蝶子はイエスともノーとも答えない。それが蝶子に許される唯一の抵抗だった。
蝶子の意思などまるで無視して、紀香と七緒はどんどん話を進めていく。あっという間に顔合わせの日取りが決まり、蝶子にもそれが告げられた。
「私も、出席しないといけないでしょうか」
かすかに震える声で蝶子は聞く。
晴臣の花嫁に七緒が選ばれる、その瞬間はできれば見たくない。さぞかしお似合いだろうふたりに嫉妬する自分が、蝶子には容易に想像できた。