冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
「当たり前じゃないの。花嫁の姉なんだから、祝福しないとね」

 紀香の嘲笑が蝶子の胸を深く抉る。

「――わかりました」

 みじめだった。きっぱりと拒否できない自分に嫌気がさす。だが、拒否しなかったのは紀香に逆らえないからではない。
 たとえ振られるためだとしても、また晴臣に会いたいと思ってしまったのだ。その未練がましさが蝶子をますますみじめな気持ちにさせる。

 そして迎えた食事会当日。店を選んだのは有馬家のほうで、広々とした庭園を有する和食の名店だった。蝶子の気持ちとはまるで裏腹に、空は青く澄み渡り爽やかな風が吹き抜ける。
 明るい日差しのもと、七緒は石畳をゆっくりと進む。あでやかな朱色の振り袖に身をつつんだ彼女は輝くばかりに美しい。蝶子はグレーの膝丈のワンピース姿だ。

『主役は七緒なんだから、わきまえるように』

 そう紀香に釘をさされていたので、いつも以上に地味な洋服を選んだ。
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