冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 蝶子の答えは答えになっていない。意を決したように紀香がきっぱりと言う。

「主役をたてるのは大切なことですからね」

 晴臣はますます表情を曇らせる。百合もどういうことなのかという顔で紀香を見た。

「どういう意味でしょうか。今日の主役は蝶子さんでは?」

 晴臣の直接的な問いかけに紀香はふふと、薄く笑う。

「その話なんですけどね、縁談は蝶子でなく七緒ではいかがですか」
「は?」

 晴臣も百合もぽかんと口を開けて紀香の顔を見返す。ふたりとも、紀香がなにを言い出したのか、さっぱりわからないと言いたげな表情だ。だが、紀香はまったく意に介さず続ける。

「晴臣さんと蝶子との婚約はずいぶん昔の話でしょう? 今の観月家としては、七緒のほうが晴臣さんにふさわしいと考えていますの」
「でも……」

 困惑しきった表情の百合がちらりと蝶子に視線を送るが、蝶子は押し黙ってうつむくばかりだ。

(本当は嫌だと言いたい。けど……紀香さんの言うとおり、彼にふさわしいのは私でなくきっと七緒ちゃんだ)

 反論しない蝶子に気をよくした紀香は強気に話を進める。

「七緒もその気なんですよ。なんでも晴臣さんにひと目惚れしてしまったようで。晴臣さんさえ良ければ、卒業を待たなくてもいいくらいです。ね、七緒ちゃん」

 若さの弾ける愛らしい笑顔で、七緒は晴臣を見つめる。

「はい! すぐにでもお嫁さんにしてください」
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