冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 めったに届くことのない蝶子の願いだったが、奇跡が起きたのか彼にはしっかりと伝わったようだ。

「わかった」

 晴臣は短く答え、蝶子の手をぎゅっとより強く握り返す。次の瞬間、蝶子の身体はふわりと宙に浮いた。晴臣が彼女を抱きあげたのだ。晴臣の男らしい鎖骨から立ちのぼってくるビターでセクシーな彼の香りが、蝶子の鼻をくすぐる。
 晴臣はまるで見せつけるように蝶子の身体を強く抱き締めると、紀香に向かってきっぱりと宣言した。

「勘違いしてもらっては困りますね。俺は観月家との縁談なんてこれっぽっちも望んではいません。この婚約を進めようと思ったのは、相手が蝶子さんだからです」

 侮辱されたことを悟った紀香の顔がかっと赤くなる。七緒は驚いたように目を丸くしていた。

 晴臣はふっと不敵にほほ笑む。

「俺の妻になる女は蝶子だ。覚えておけ」

 無礼な紀香に対する当てつけなのだとわかってはいる。だが、それでも……どうしようもないほどに蝶子の胸は高鳴った。甘く疼いて、苦しいくらいだ。

 
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