冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
「い、嫌ではないですけど……」

 そう、困ったことに嫌ではないのだ。晴臣に触れられるのは、ちっとも不快ではない。この先に起こることを蝶子は知らないが、相手が彼ならきっと嫌だと感じることはないと言いきれてしまう。
 晴臣がふっと表情を緩ませたのを、気配で感じる。うつむいたままの蝶子の視界に彼の指先が侵入してくる。彼の長い指が蝶子の顎を持ちあげると、至近距離で視線がぶつかる。

「あっ」

 蝶子は顔を背けようとするが、彼はそれを許さない。

「嫌だと思ったらそう言え。嫌がることをする気はない」

 彼の魔力にあらがえず、蝶子はこくりと小さくうなずいた。晴臣が照明を落とし、室内は橙色の薄明りに包まれた。

「キスの経験は?」

 蝶子は正直に首を横に振る。この年齢でキスの経験すらないのが特殊であることは自覚しているが、嘘をついたところでどうせ彼にはお見通しだろう。

「力を抜いて、なにも考えずに身を委ねていればいい」
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