冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
「は、晴臣さんは……ずるいです」

 蝶子は恨みがましい目を彼に向ける。

(だって、こんなたったひと言で、すぐに私をご機嫌にしちゃうんだもの)

「なにがずるい?」

 おもしろがるような瞳が蝶子を射貫く。

「それは、な、内緒です」

 正直に答えるのも癪に思えて、蝶子はぷいと顔を背ける。晴臣はまた肩を震わせている。

「機嫌が治ったなら、店に戻ってベッドを買おう。君に任せていると日が暮れそうだから、もう俺が選ぶよ」

 喫茶店を出たところで、蝶子は勇気を振りしぼって声を張りあげた。

「あ、あのっ」
「ん? 大きな声でどうした?」

「ベッドの件ですが……ふ、ふたりで使うベッドを買いたいっ……です」

 晴臣は唖然として蝶子を見返す。その反応で我に返った蝶子は猛烈に押し寄せてくる恥ずかしさに身悶えた。

「ご、ごめんなさい! やっぱり冗談ですよね。私、勝手に本気にしちゃって」

(うぅ、穴があったら入りたい)

 蝶子は必死に言葉を重ねる。

「今の発言は、なかったことにしてください」
「――それは無理だな」

 晴臣はぎゅっと蝶子の手を握ると、指を絡ませる。
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