冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
「むしろ逆だ。蝶子といると、リラックスしすぎてしまって、なんだか自分じゃないみたいだ」

 晴臣は自分がワーカホリック気味であることを自覚していたが、それを問題だとは思っていなかったし、医師はそのくらいでいいのだと言い聞かせていた。だが、彼女のそばにいると、普段の自分が結構無理をしていたことに気がつく。蝶子の隣は、驚くほどに身体が軽く、呼吸が楽だ。

「癒されるというのは、こういう感覚をさすんだな。初めて実感した」

 晴臣が言うと、蝶子はクスクスと楽しそうに笑う。

「なんだ?」

 晴臣が聞くと、蝶子は蠱惑的な瞳で晴臣を見あげる。

「今日の晴臣さんはいつもと少し違いますね」
「そうか?」
「はい!」

 どう違うのか聞こうかと思ったが、蝶子の笑みに見惚れていてタイミングを逃してしまった。
 食事を終えると、晴臣は蝶子に風呂をすすめた。

「はい。じゃあ、お言葉に甘えてお先に」
「風呂から出たら、少し散歩に出てみないか? 今夜は月が綺麗だから」

 部屋の窓に視線を向けながら、晴臣は言う。ガラスを隔てていても、黄金色に輝く月の美しさが見てとれる。蝶子はうれしそうにうなずいた。

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