冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
ガラス扉を一枚隔てた向こうで蝶子が風呂に入っていると思うと、妙に落ち着かない気分になり、晴臣は意味もなく部屋のなかを歩いたりした。
(思春期の中学生か……)
そう自分につっ込んでみるものの、浮き立つ心を止めることはできない。恋する相手といると、ワクワクドキドキして楽しいもの。そんな誰もが当たり前に知っている感情を、晴臣は今、初めて経験していた。
月明りに照らされる蝶子の浴衣姿はあまりにもまぶしい。優しい桜色は彼女にとてもよく似合っていて、魅力を倍増させる。
「満月、ですかね?」
「かもな」
専門的な知識はないので、もしかすると一日二日のズレはあるかもしれないが、頭上に輝く大きな月は美しい真円を描いているように見える。
「月を見るといつも思うんです。輝夜姫は、結局誰のことも好きになれなかったのかなって」
蝶子はぽつりとつぶやいた。彼女らしい文学的な議題だなと晴臣はほほ笑ましく思う。
「そう読み取ることもできるし、求婚者のうちの誰かを本当は――と考えることもできそうだな」
そう解釈すると、男たちのドタバタを描いた喜劇もしっとりとした悲恋の物語に変わる。蝶子はきっと文学のそういうおもしろさに魅了されているのだろう。
(思春期の中学生か……)
そう自分につっ込んでみるものの、浮き立つ心を止めることはできない。恋する相手といると、ワクワクドキドキして楽しいもの。そんな誰もが当たり前に知っている感情を、晴臣は今、初めて経験していた。
月明りに照らされる蝶子の浴衣姿はあまりにもまぶしい。優しい桜色は彼女にとてもよく似合っていて、魅力を倍増させる。
「満月、ですかね?」
「かもな」
専門的な知識はないので、もしかすると一日二日のズレはあるかもしれないが、頭上に輝く大きな月は美しい真円を描いているように見える。
「月を見るといつも思うんです。輝夜姫は、結局誰のことも好きになれなかったのかなって」
蝶子はぽつりとつぶやいた。彼女らしい文学的な議題だなと晴臣はほほ笑ましく思う。
「そう読み取ることもできるし、求婚者のうちの誰かを本当は――と考えることもできそうだな」
そう解釈すると、男たちのドタバタを描いた喜劇もしっとりとした悲恋の物語に変わる。蝶子はきっと文学のそういうおもしろさに魅了されているのだろう。