冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
「日本の物語は西洋のそれに比べて、主題や結末が曖昧なものも多いんですよね」
「あぁ。日本昔話のシリーズは子ども心にも疑問を抱いたな」

 わかりやすい完全懲悪ものもあるが、善人に思える主人公が不幸な結末を迎えてしまう話なんかもあったりして、意外と奥が深い。蝶子のような研究者気質の人間にはたまらない題材だろう。
 じっと月を見つめて物思いにふけっている蝶子が、月へと帰っていく輝夜姫の姿に重なり晴臣は不安を覚えた。

「君は帰るなよ」

 ぼやくように言った晴臣を振り返り、「え?」と蝶子は小首をかしげた。そんな彼女の腕を引き、自身の胸のなかに抱きすくめた。ぎゅっと、彼女の背骨がきしむほどの強く抱く。

「は、晴臣さ――」

 彼女の言葉を遮って、強引に唇を奪う。温かなぬくもりを、ずっとそこにとどめておきたくて、晴臣は角度を変えて幾度もキスを繰り返す。次第に蝶子の身体から力が抜け、甘い声が漏れはじめた。

「んっ、はぁ」

 しっとりと湿った吐息が晴臣の耳を刺激して、どうしようもないほどに劣情を煽る。
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