冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 蝶子は必死に抵抗するが、彼の攻撃はやまない。焦らすように、もてあそぶように、どこまでも甘く蝶子を攻め立て、昂らせていく。ゆうべの獣のような激しさを持つ彼にも翻弄されたが、今の彼も恐ろしいほどに蝶子を虜にする。その手もその声も、強力な媚薬のようにじわじわと蝶子の全身を侵していく。
 結局、朝からたっぷりと愛を注がれ、蝶子は自分の限界を見た。ぐったりと力なく横たわる彼女とは対照的に、すがすがしい顔をした晴臣がけろりと言う。

「部屋にこもっていると何度でも君を抱きたくなって、本当にその身体を壊してしまいそうだから……今日は外に出かけようか」
「賛成です。せっかくの箱根ですから、登山でも」

 本格的な装備がなくともハイキング気分で登れる山が箱根にはたくさんあったはずだ。晴臣の体力を少しでも削がなくてはと、蝶子の本能が告げている。その目的を察したらしい彼は、ふっと薄く笑う。

「いいのか? 体力がなくなったときのほうが人間の性欲は高まるらしいぞ」

 
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