約束の指にキスして。
『本当、人騒がせなヤツだな。あのな瑛梨、俺も後で個人的に話があるぞ。』

『匡ちゃん…』

懐かしい匡ちゃんの笑み。でもそれは、直ぐに消えてきびしい表情に変わった。
ふわりと撫でられると、すっ、その後ろから手が伸びて匡ちゃんの手を払った。

『いつまで触ってんだよ。』

健司?
不機嫌そうな健司の声が聞こえた。健司は、アタシの横に立って、アタシの腕を引っ張って二階まで歩く。
健司も来たの?
だとしたら、桔平も?
もう二度と会わせる顔がない桔平に、今会えない…
不安そうに辺りを見回しても、桔平の影はどこにもなかった。
アタシと健司の後を、キッペーがついてくる。
健司は、アタシの部屋の前で止まると、ためらいがちにドアノブに手をかけた。

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