約束の指にキスして。
健司がアタシを優しく抱きしめた。
ギュッと胸の辺りが苦しくなる。
『やめて…』

『どうした?』

『どうしてそんなに2人はアタシに優しいの…?』

精一杯の声を振り絞って発した、アタシの頬を、健司がなでる。
ほらまた…
優しい二人は、アタシにどこまでも、果てしなく優しくて……

今でも覚えてる。

見てないふりして、気付いてないふりして、目をそらしたアノとき。
あの日、あんなに酷いことをいったアタシが立ち去るとき、桔平の手が、少しだけアタシを追いかけたこと。

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