転生ヒロインの選択。白馬に乗った王子様はいません。

いじめとは言えず

「アンジェリカ!」

「殿下」

 騒いでいる声が聞こえたのか、それとも偶然なのか。

 殿下が校舎から出てきた。初め、びしょ濡れの私を見て何が起きたのか分からない殿下が、上を見上げる。

 するとまずいと思ったのか、先ほどの生徒たちが顔を引っ込めた。

 ただ、あの位置からバカ騒ぎをしていたのだ。引っ込めたところで、顔は確実に見られただろう。

 全く、自業自得だな。

 ん-、自業自得? そんな言葉、ココにあっただろうか。益々、頭の中が混乱していく。

「どうしたんだ、これは。びしょ濡れではないか」

「殿下、あの……私……」

 まるで泣いているかのような私を見た殿下は、手に拳を作り怒りに肩を震わせる。

「こい」

「いけません殿下、殿下まで濡れてしまいます」

「構わん」

「いえ、そういうワケには……」

 殿下が気にしなくても、私が気にする。ただでさえ、私達には大きな身分差があるというのに。

 こんなところを側近や誰かに見られてしまったら、なにを言われるか分からない。

 殿下は気にすることなく、私の手を掴み歩き出した。

 さっき、確かに何かを思い出しそうだったのに、あれはなんだったのだろう。

 殿下の顔を見た瞬間に、思い出せそうだった感覚が消えてしまった。

 あと少しだったのに。そして私はそれを思いだないといけないような気に駆られている。

 ただ焦ったところで、モヤのかかった頭の中はスッキリとはしない。

 殿下に手を引かれ、医務室へ連れてこられた私は、先生を驚かせてしまったものの、すぐに先生は着替えを用意してくれた。

 その後、怪我がないか診察してもらう。

「一体、あの場で何があったんだ」

 殿下は医務室へ連れてきてくれた後も、ずっと不機嫌なままだ。

 私に不機嫌にされても困るのだが、もちろんそんなこと言えるワケもない。

「その……私がぼーっとしてて。水替えをしていた水をかぶってしまったようで」

「窓から水を捨てたということか」

「はははは、そうみたいですね」

「そんなの、わざとだろう」

「んー。わざとかもしれませんし、手が滑っただけかもしれません……」

「おまえは、手か滑ったら窓から水を捨てるのか?」

 確かに殿下の言うコトは正論だ。

 しかし告げ口のようなことは、出来ればしたくはない。

「それは……そうですが……。でも、万が一ということもありますし……」

「……はぁ」

 下を向き、ボソボソ話す私に愛想を尽かしたのか、大きなため息を殿下が漏らした。
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