転生ヒロインの選択。白馬に乗った王子様はいません。
恋する婚約者
「クリスティーナ」
先程、私に水をかけたと思われる教室には、数名の女子生徒がまだ残っていた。
そこへ息を切らすことなく、部屋へ殿下が飛び込み、大きな声を上げる。
体力の差がありすぎるのか、すでに私は肩で息をしており、とても声が出る状況ではない。
水をかけた子と、その様子を馬鹿にして笑っていた子、そしてその奥に静かに座る子の三人だ。
クリスティーナと呼ばれた奥の子が、殿下を見るなり、一瞬眉を顰めた。
しかしそれも一瞬のことで、まるで何事もなかったかのように立ち上がる。
美しい銀色のストレートヘアに赤紫の瞳。
同じ制服を着ていると言うのに、所作がとても美しいからか、まったく別世界の人間のように感じる。
他の二人も、あくまで彼女の引き立て役にしか過ぎないだろう。
同性の私ですらほぅっと見とれてしまうぐらいの美人さんだ。
「アレン殿下におかれましては、ご機嫌麗しゅうございます」
ゆったりとお辞儀をすると、長い髪がさらりと揺れた。
その表情は先ほどの険悪なモノではなく、にこやかな笑みを浮かべている。
ああ、この人は殿下のコトが好きなんだろうな。
殿下を見つめる瞳、やや赤らめた頬。
彼を見つめたその瞬間から、確かに美しく綺麗だった表情は、まるで恋をする女の子特有の、可愛らしさで溢れていた。
「挨拶など、どうでものよい」
しかし殿下はそんな可愛らしい表情をした、クリスティーナを一蹴する。
さすがの私でさえ、その様は開いた口が塞がらない。
いくら私に水をかけたとはいえ、自分に好意を抱く人間に対して、あまりに辛辣だ。
「殿下ともあろう方がどうなされたのですか。そのように声を荒げては、下の者たちが驚いてしまいます」
クリスティーナは、殿下の後ろにいた私を睨みつけた。
まぁ、それはそうでしょうね。でも、私はちゃんと止めたんだよ……。
被害者であっても、なんだか申し訳なさで私の中はいっぱいになっていく。
恋する乙女の邪魔をしたのだ。それは水ぐらいかけられても、確かに仕方のないことなのかもしれない。
「どうなされたでは、ないだろう。お前がこのアンジェリカにしていた悪行の数々を知らないとでも思っているのか」
「だとしたら、なんだと言うのですか」
「開き直るのか」
「開き直るもなにも……。たまたま、水を溢したトコロにそこの者がいただけでしょう。そんないちいち細かいことを言われましても、覚えていませんわ」
当の本人である私を置き去りにして、二人の会話が過熱していく。
私としては、私も悪いところがあったのならば、直すので勝手に話を進めて欲しくないんだけどなぁ。
しかし二人の話に、入る余地などない。
身分とかそういう問題じゃなくて、まぁ、いじめは絶対にダメなんだけど。
いじめられてると、私は気づいてなかったから、良かった案件なので、殿下が怒るのも分かる。
分かるのだが、なんだろう。全体的に感じているこの違和感。
先ほど水をかけられた時に感じた、何かを思い出しそうな感じが甦ってきた。
「……そんなことは、俺が判断すべきことであって、きみにいちいち指図されるいわれはない」
「ですがわたくしは、殿下の婚約者ではありませんか。その婚約者であるわたくしを、ないがしろになさるとおっしゃられるのですか」
先程、私に水をかけたと思われる教室には、数名の女子生徒がまだ残っていた。
そこへ息を切らすことなく、部屋へ殿下が飛び込み、大きな声を上げる。
体力の差がありすぎるのか、すでに私は肩で息をしており、とても声が出る状況ではない。
水をかけた子と、その様子を馬鹿にして笑っていた子、そしてその奥に静かに座る子の三人だ。
クリスティーナと呼ばれた奥の子が、殿下を見るなり、一瞬眉を顰めた。
しかしそれも一瞬のことで、まるで何事もなかったかのように立ち上がる。
美しい銀色のストレートヘアに赤紫の瞳。
同じ制服を着ていると言うのに、所作がとても美しいからか、まったく別世界の人間のように感じる。
他の二人も、あくまで彼女の引き立て役にしか過ぎないだろう。
同性の私ですらほぅっと見とれてしまうぐらいの美人さんだ。
「アレン殿下におかれましては、ご機嫌麗しゅうございます」
ゆったりとお辞儀をすると、長い髪がさらりと揺れた。
その表情は先ほどの険悪なモノではなく、にこやかな笑みを浮かべている。
ああ、この人は殿下のコトが好きなんだろうな。
殿下を見つめる瞳、やや赤らめた頬。
彼を見つめたその瞬間から、確かに美しく綺麗だった表情は、まるで恋をする女の子特有の、可愛らしさで溢れていた。
「挨拶など、どうでものよい」
しかし殿下はそんな可愛らしい表情をした、クリスティーナを一蹴する。
さすがの私でさえ、その様は開いた口が塞がらない。
いくら私に水をかけたとはいえ、自分に好意を抱く人間に対して、あまりに辛辣だ。
「殿下ともあろう方がどうなされたのですか。そのように声を荒げては、下の者たちが驚いてしまいます」
クリスティーナは、殿下の後ろにいた私を睨みつけた。
まぁ、それはそうでしょうね。でも、私はちゃんと止めたんだよ……。
被害者であっても、なんだか申し訳なさで私の中はいっぱいになっていく。
恋する乙女の邪魔をしたのだ。それは水ぐらいかけられても、確かに仕方のないことなのかもしれない。
「どうなされたでは、ないだろう。お前がこのアンジェリカにしていた悪行の数々を知らないとでも思っているのか」
「だとしたら、なんだと言うのですか」
「開き直るのか」
「開き直るもなにも……。たまたま、水を溢したトコロにそこの者がいただけでしょう。そんないちいち細かいことを言われましても、覚えていませんわ」
当の本人である私を置き去りにして、二人の会話が過熱していく。
私としては、私も悪いところがあったのならば、直すので勝手に話を進めて欲しくないんだけどなぁ。
しかし二人の話に、入る余地などない。
身分とかそういう問題じゃなくて、まぁ、いじめは絶対にダメなんだけど。
いじめられてると、私は気づいてなかったから、良かった案件なので、殿下が怒るのも分かる。
分かるのだが、なんだろう。全体的に感じているこの違和感。
先ほど水をかけられた時に感じた、何かを思い出しそうな感じが甦ってきた。
「……そんなことは、俺が判断すべきことであって、きみにいちいち指図されるいわれはない」
「ですがわたくしは、殿下の婚約者ではありませんか。その婚約者であるわたくしを、ないがしろになさるとおっしゃられるのですか」