転生ヒロインの選択。白馬に乗った王子様はいません。
生断罪
クリスティーナは目に涙を貯め、訴えかける。
親同士が、または国が決めた婚約者でしかないというのに、クリスティーナは殿下のことが本当に好きなのだろう。
かつての、あの人と同じように……。
クリスティーナのその健気な姿に、私の大切な人が重なった。またココでも同じように繰り返すのだろうか。
何度も何度も。
「そうだな……」
「アレン殿下」
「クリスティーナ、俺がいままで曖昧な態度を取ってきたことがいけなかったのだろう。そうだな……今この時をもって、きみとの婚約を破棄させてもらおう」
うわぁ、すごーい。私、生断罪初めて見ちゃった。
そう口から出かけた言葉を、私は飲み込んだ。
生断罪。乙女ゲームやラノベなどでよくある、ヒロインをいじめていた悪役令嬢の、殿下からの断罪シーン。
その場面を見てようやく思い出したのだ。
私には今より前に、普通の高校生として生きていた記憶があることを。
ただそう考えると、この、私の立ち位置は少しまずい。非常にまずい。
先ほどの水をかけられたのもそうだが、今までも小さな嫌がらせを受けてきた。
そして今、殿下が婚約者であるクリスティーナ様を断罪しているとなると……。
「俺はこのアンジェリカを愛しているんだ。今日、傷つく彼女を見て、ようやくそのことに気づけた。クリスティーナとの婚約を破破棄した後、俺はアンジェリカと婚約することにする」
殿下が私の肩を引き寄せた。
本来ならばヒロインはここで殿下にしなだれかかり、見つめ合い、愛をささやく場面なのだろう。
そう、問題は私には、まったくその気がないというコトだ。
困ったなぁ。私は一人、どうしてこうなってしまったのかと、ふと考える。
確かに殿下とお近づきになるために、愛想は振りまいてきた。
そして殿下がしたいということには全て付き合い、手作りのものが食べたいと言われれば作ったりもしていた。
勘違いをさせた方も悪いというならば、確かに悪いと、そこは自分でもそう思う。
思うのだが、うん、困ったなぁ。
「どうしてなのです、殿下」
クリスティーナはその場に膝を付き、泣き崩れた。悪役令嬢というより、その可憐な姿はやはりヒロインだ。
凛としているのに、その実とても内面は儚く、殿下に近づく私をどうしても排除したいという嫉妬に駆られて細やかないじめをしていたという。
しかし殿下は、彼女の思いなどまったくないモノというように、気にも留めはしない。
「クリスティーナ様」
取り巻きの二人が、クリスティーナを支えた。そして二人の非難の目はすべて、私に向けられている。
まぁ、それはそうでしょうよ。どう頑張っても、自分でさえ、私が悪役にしか思えないのだから。
「殿下……殿下……わたくしは……」