月夜に笑った悪魔 (番外編)
私は彼の袖をつかむ手とは反対の手で、彼の口元を覆った。
一旦黙らせてから、
「私がバイトも就職もしたらダメなちゃんとした理由、あるなら言って」
暁の目をまっすぐに見つめる。
大きめの声で言ったから、彼の耳には届いただろう。
やだやだ言ってるだけじゃわからないから、ちゃんとした理由があるなら聞こうと思ったのに、彼は……。
ぺろっ、と舐めた私の手のひら。
濡れた感触を感じて、反射的に彼の口元から手を離した。
「な、なにするのっ!」
「……おまえ、自分の金が貯まったらいつでもこの家出てくことできんじゃん」
小さな声で返す彼。
だからダメ、と付け足せば私から目を逸らす。
それが、反対する理由?
お金が貯まったら私がこの家から出ていくことができるって……。
それが心配なの?
……そんなことしないのに。