月夜に笑った悪魔 (番外編)
大人しく閉じた口。
それを確認した岳は手に持っていた拳銃を置いて、今度はナイフを手に取る。
「……───、」
彼の唇が動いた。
声に出さず、口パクで伝えられた言葉。
私がその言葉を理解した、次の瞬間にはナイフは振り上げられ。
それは私の腹部めがけて落ちる。
生あたたかいものが腹部から溢れた。
ドレスに広がっていく、赤色。
私から離されたナイフにも赤色がベッタリつく。
「そんなに深くは刺してねぇから安心しろ。まだ死なねぇよ、まだ」
投げられた赤色がついたナイフ。
それはカランと音を立てて離れたところへと落下。
「放っておいたら失血死するだろうけどな。お前が死ぬ前には一条を連れてきてやるよ。
それで、お前の首を一条の目の前で落として……一条もすぐにあの世に送ってやる」
感じた浮遊感。
私は岳の小脇に抱えられて、どこかに運ばれていく。
遠のいていく意識。
声も少しずつ聞こえなくなっていって……。
やがて瞼がおりて、意識がプツリと途切れた。