私を愛して


あの日は、7月にしては涼しい日だった。

私をお父さんに紹介してくれた。

「ご無沙汰しております」

お父さんは、私の事を覚えてはいなかった。

当然の事だった。

前にあったのは、まだ学生の頃で、しかも挨拶程度だったからだ。



私も、ご無沙汰してると言ったものの、お父さんの顔も覚えていなかった。
ただ、形式的に初めましてではないので、ご無沙汰してると言ったまでだ。


私は、買ってきた水ようかんを渡した。

お父さんは、口数の少ない人だった。
お母さんは、彼が幼い頃に他界していた。

お父さんと、少しだけ話して失礼させてもらった。


緊張して、私の手のひらは汗で濡れていた。

でも、私は嬉しかった。満足だった。
やっと認めてくれたようで嬉しかった。

彼が女性をお父さんに、紹介したことが無いと前に聞いていたからだ。

私の事を真剣に考えてくれているんだと、安心できた。



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