私を愛して



とうとう、彼はその話題に触れてきた。

私は今まで彼と付き合っている間、他の男の子と遊んだことが無かった。

彼もまた、女の影は無かった。


彼は「結婚前やから、いっぱい遊んどきや」


ふぅー、なんて前向き思考なんだろう。

私の作戦は失敗したのだろうか?

その頃に、迷いに迷ったが、子供たちに告白することに決めた。


子供たちがみんな集まって、私がガンになっていることを伝えた。

そして、延命はしたくないと言うことも伝えた。


子供たちは、大泣きした。


治療して欲しいと泣いた。


長女が「もし、私がガンになって、延命したくないって言ったら、その通りにしてくれるの?」

答えは、NOだ。


でも、私はもう、この病気から開放されるということの方が大きかった。
もう、躁うつ病とは戦いたくなかった。


いくら話しても、堂々巡りだった。

とりあえずは、病院へ行く事を約束させられた。

病院へは長女がついてきた。


治療方針を真剣に聞いている。
私は上の空だった。


幸い?
ガンは進行していなかった。


娘が色々な書類にサインする。
そしていつの間にか手術する事が決まっていた。

手術しても、治るという保証はない。


娘は、私の知らない間に彼に連絡を取っていた。
娘は私の携帯のロックナンバーを知っていたからだ。



手術が終わり、私は暫く入院生活が始まった。



そこに、彼がお見舞いに来た。

私は驚いた。
彼には何も伝えていなかったからだ。


彼は、娘から聞いたと教えてくれた。



私はいを決意して、彼に別れて欲しいと言った。
私は助からないかもしれない。

治っても再発するかもしれない。

躁うつ病だけでも、彼の負担になるのに、今度はガン。

もう、彼の重荷になりたくなかった。


でも、彼は微笑みながら、でも、少し涙目で私に、封筒を渡したのだ。


その中には婚姻届が入っていた。


また、私は泣いた。

なんで?

どうして?


私、死んじゃうかもしれないよ?


それなのに、なんで?


彼は優しく、落ち着いた声で私に、「大丈夫やで。一緒に戦おう。俺が傍に居たら頑張れるやろ?出来るだけ傍におるから。仕事の帰りにも寄るから」

涙がポロポロと落ちていく。

「これ、サインして」

彼は、自分の涙を拭いながら婚姻届にサインをしてと言ってきた。


「無理だよ。書けないよ。もし、私が死んだら?一人ぼっちになっちゃうよ?」


「大丈夫。死なないよ。死なせないよ。でも、もし仮に死んでしまったとしても、俺は後悔しないよ。一瞬でも夫婦になれたことを俺は忘れないよ。だから、ね?書いて」


私の涙は止まることを忘れたようだった。
どうしたら泣くことを止めれるのだろうか?


私は、とりあえず婚姻届は預かることにした。
回復具合で、サインするかどうか決めたかったから。


私は、延命の方に気持ちを切り替えたのだ。





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