ちょうどいいので結婚します
 千幸は良一に言われたことを思い出していた。

もし、功至が結婚したら。今まで通り見ているだけで幸せで何も変わらないはずなのに、胸が痛いのはなぜだろう。見ているだけで幸せだったけど、彼が独立して会社を辞めることになれば、見ることも叶わなくなる。考えたくないほど憂鬱に襲われた。

千幸が素直になれるのは自室のベッドの上だけだった。
「……嫌だな、そんなの」
心は嫌だとはっきりと言っていた。だからといってどうしていいのか、どうにかなるものでもなかったのだ。

「本当はあのチョコだって、食べずにずっとおいておきたかったのに」

自分が恋愛に奥手なばっかりに親はしきりに心配して見合い話を持ってきた。断っていたのは、資格取得へ集中したいのもあったが、功至を前にままならなく気持ちにも原因があった。

気持ちを進めることも、気持ちを昇華することも出来ず、ただ見つめるだけで幸せだった。それさえ贅沢だったと思う日がくるのだろうか。

ベッドから起き上がるとテキストを開いて勉強に励んだ。近頃は独学の勉強にも限界でどこか仕事後に通えるスクールはないだろうかと、考えていた。これだって功至に気軽に聞けたらいいのにと自分が嫌になっていた。

千幸は、功至が結婚したらという、想像だけで直ぐに沈んでしまう気持ちを振り切って、テキストに目を落とした。資格を取れた時には、何歳になっているのか。漠然とした不安を抱いていた。
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